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「賃貸住宅管理業法 全面施行に寄せて」(週刊住宅タイムズ 寄稿記事)

寄稿/不動産コンサルタント 沖野元

 賃貸住宅は社会のインフラである。私がこの認識を持つに至ったのは、単に不動産業界に20年以上に渡って携わっているからだけではない。
 2011年に東日本大震災があった際、私の所属する日本不動産コミュニティー(J―REC)での経験がもとになっている。当時、震災で家が流された人など住まいを無くした人があふれた。その中で、J―RECでは「住まいりんぐ」という被災者のための仮住まいの支援組織を立ち上げ、私はそこの相談員としてボランティア活動をした。
 この組織は震災で住まいを無くした人と空室を仮住まいとして提供する意思のある家主を結びつけるもので、相談員とはその際の契約が円滑に行われるよう手助けする役割を担う。いろいろな人をお世話する中で非常に感謝されることがあり、やりがいを感じるものだった。そうした経験の中で、住まいというものが俗に「衣食住」と言われるように人間にとって欠かすことのできない生活の基盤であること、またその中でも特に賃貸住宅がこのようにいざという時に困った人の役に立つものであることを強く認識し、冒頭のインフラとしての役割を担うものという思いに至ったのである。
 宅地建物取引業者は賃貸住宅という社会のインフラに関わっているという誇りを持ち、これらの適切な管理によってオーナーの利益保護を図り、入居者に安心・安全を提供することを重要な使命と捉えるべきであろう。
 一部のオーナーにも意識変革を促したい。近年、低金利や将来不安から財テクの感覚で不動産投資(賃貸住宅経営)に参入する人が増加している。私が講師を務める不動産実務検定講座では受講者に「賃貸住宅はインフラであり、入居者の満足度が賃貸経営の安定につながる。不動産投資とは株のような財テクというよりもサービス業であり経営という意識を持つことが重要だ」と伝えている。
 人生100年時代と言われる。ライフスタイルが多様化する中で、数十年の住宅ローンを組んで一つのところに住み続けるという人が減ってきている。終身雇用や年功序列が無くなり、一つの会社に定年まで勤めるというスタイルも変化しつつある。こうした時代の変化の中で、住まいにおいて賃貸住宅という選択をする人が多くなることは容易に想像できる。つまり、我が国において賃貸住宅が果たす役割は今後ますます高まるということになるのである。
実務に即した学習で実り多い 賃貸不動産経営管理士
 このような社会情勢の中で賃貸住宅管理業法が全面施行されることの意味は非常に大きい。この法律は2つの大きな柱でできている。一つはサブリースの広告や勧誘に関するものであり、もう一つは賃貸住宅管理業の登録制度に関するものである。誇大広告や家賃減額のリスクを説明しない悪質なサブリース業者がはびこったせいで、サブリース契約のイメージが著しく悪化した。サブリースは適切に行えば、動かない不動産を動かすものとして優れた仕組みになる。特に空き家を中心とした既存住宅の利活用の際にプロ(宅地建物取引業者等)が借り上げてリフォーム・リノベーションし、賃貸することでオーナーや借り手の役に立つものにすることができる。賃貸住宅管理業法施行によって悪質な業者を排除し、適切なサブリースが行われることを願う。
 業務管理者で重要な位置を占める賃貸不動産経営管理士について書いておきたい。私自身は2019(令和元)年に受験し、翌20年に合格通知を受けて登録した。受験に際しては(一社)賃貸不動産経営管理士協議会の参考書で学び、5問免除の講習会にも参加した。その経験から、学習する内容が宅地建物取引士のように法律中心ではなく、実務に即したものが中心であり学習し取得する価値を実感した。
 当面の間は宅地建物取引士においても10時間の業務管理者講習を経て業務管理者になることはできる。ただ、宅地建物取引士の試験内容や資格に与えられた役割を考えても、これは暫定的な措置ではないかと想像できる。したがって、賃貸管理を行う宅地建物取引業者は宅地建物取引士と同様に賃貸不動産経営管理士資格も積極的に取得するよう推進していくべきであろう。
 歴史を振り返るとあの時が転換点だったということがある。不動産業界においても賃貸住宅管理業法が全面施行される今年は後年そのように見られるのではないだろうか。

 おきの・げん=日大大学院修了。不動産コンサルティングのリーシングジャパン代表取締役。不動産実務検定講師。女性大家の会『ローズ会』主宰。(一社)日米不動産協力機構調査研究部門事務局次長。日本大学理工学研究所客員研究員。 著書「大家さんのための客付力」共著「最強の定期借家入門」。